『眠りの森の美女』第3幕リハーサルがはじまる。
おそらく今日の出来で候補に残れるかどうか決まる。
第3幕は、はなやかな結婚式。
見所だらけだ。
出演者がたくさんいる。
しかも実力者ぞろいだ。
潤平は人の多さとレベルの高さに圧倒される。
あらためて王子役の責任を実感する。
ここにいる全員を引っぱっていく存在にならないと
舞台が成り立たなくなる。
夏姫も同じことを感じている。
「一番圧倒的な存在」でいなければならない。
そのうえで潤平に告白する。
「わたし、潤平の踊り好きだよ」
照れまくる潤平と、
自分で言っておいて真っ赤になる夏姫がかわいい。
潤平は精神的にダンサーになりきっている。
ダンスを褒められるのが何よりうれしい。
夏姫は潤平をただ褒めているわけではない。
踊りの方針変更を提案しているのだ。
勝つために自分たちの長所を前に出してもいいんじゃないか?
自分たちの長所は、若さ。
あかるくてはなやか。
人をひきつけるところだ。
今までは、優雅さや正しさを目標にしてきた。
だけど、ほかのペアと同じ所を目指してもとても敵わない。
「楽しい」を出すと『眠り』から遠ざかるけど
すこしでもアピールはできるんじゃないか?
「楽しんで踊るっていうの全開で踊ったほうが
GINYAさんの目に止まるんじゃないかな?」
「ただ負けるために踊るより一か八か-」
夏姫は勝負にこだわる。
勝利の確率が少しでも高まるよう
この期に及んでも、対策を考え続けている。
響の変身
潤平と夏姫の作戦会議が途切れた。
ふたりの後ろから後光がさす。
響の登場だ。
会場が一気にざわめく。
響は豹変している。
圧倒的な存在感。
「響さん、気合入ってますねえ!」
海咲の声かけすら軽薄に響く。
あの海咲が気おくれしている。
響は自信に満ちあふれている。
「オーディションなんて・・・待ってるのかったるいわ」
「今日で決めるわよ」
海咲にプレッシャーすらあたえている。
中村先生が潤平たちを送り出す。
「自信をもってやってこい!」
「正しく端正にオーロラとデジレ!!」
潤平たちも応える。
しかし作戦を変更しているのだ。
「俺たちの長所を前面に出してきます!!」
「だから・・・ど真ん中正統派とは
外れてしまうかもしれません・・・!」
今さら方向転換だ。
置いてけぼりになったバンダ中村先生はあせる。
あれだけ練習につきあってきたのに・・・
クラシックに踊るようさんざんレッスンしてきたのに・・・
潤平と夏姫の第3幕パドドゥ
ふたりは踊り始める。
バンダ中村先生は、はらはらして見守る。
「ちゃんと王子と姫じゃないか」
「基礎を大事にちゃんと言ったことを守ってるじゃないか」
「このまま余計なことはしてくれるなよっ・・・!!!」
ふたりよりも、バンダ中村先生のほうがプレッシャーにさらされる。
自分が踊らない分、気持ちのはけ口がない。
ふたりは事前に踊りの解釈を話し合っている。
解釈というよりおしゃべりだ。
オーロラ姫とデジレ王子のことを話しながら
けっきょく自分たちの感情をのせてしまっている。
役柄への没入が、踊りにあらわれる。
潤平がデジレ王子。
夏姫がオーロラ姫。
さかいめががなくなっていた。
曲が盛り上がりにつれてノッてきた。
これが潤平と夏姫の「解釈」だ。
はじめは役目を全うしようとしていた姫と王子が
踊っているうちに相手しか見えなくなってしまう。
国のリーダーが、ただの恋するふたりになる。
見ていたGINYAが高笑いする。