外国人は体格がちがう
翌朝、YAGPファイナル会場へバスで入る。
ニューヨーク州立大学ヴァーチェス校だ。
いっきに外国の雰囲気をあびてたじろぐ一団。
身体がぜんぜんちがう。
欧米人は体格が根本的に違う。
そのなかでも究極、YAGPにあつまるようなダンサーたちを目の当たりにしている。
足が長い。細い。
頭ちっちゃい。
大人っぽい。
雰囲気がある。
子ども体型の多い日本人とのギャップがあまりに大きい。
わかっていても目の前でフィジカルの差を見せつけられた。
外国のバレエ・ブランドが会場内にブースを出している。
イギリスからフリードオブロンドン。
ロシアのグリンコ。
アメリカのカペジオ。
海外の空気があふれていて女子たちのテンションが上がる。
潤平は踊れるのか
夏姫と寿は潤平のことが気にかかる。
昨夜の練習で異常な表現を見せていた。
あげく、感情がはげしくなって最後までおどれなかった。
笑顔の作り方だ。
「自分の真実を必死に取り繕うような」
「ごまかすような、情けなくて泣き出しそうな」
「色んな意味が混ざった笑い顔」
撮影の大原田さんがびっくりした異様な表現だ。
中村先生は、撮影をとめてもらい潤平と話し合った。
ホテルの部屋で聴き取り。
どんな感情で新しい表現を選んだのか?
潤平はうまく説明できない。
だばだばと涙を流して踊りに込められた思いを話そうとする。
自分をコントロールできなくなっているのは良くない。
中村先生としては、以前の踊りに戻したい。
状況を整理し、潤平に選択肢をあたえる。
お披露目会バージョンも潤平の良さを十分表現していた。
全身全霊バージョンは仕上がってから踊ることもできるぞ。
中村先生は「お披露目会」バージョンをおす。
潤平は中村先生の説得に反応した。
「バージョン」という言葉がとっかかりになった。
「お披露目会」と「全身全霊」は同じ振り付けで、
単なるバージョン違いだ。
だとすればいけるかも。
潤平にとって「お披露目会」は物足りなくなっている。
踊りたいのは「全身全霊」嫌悪感たっぷりバージョンのほうだ。
本番直前で「全身全霊」をおしてしまう中村先生
潤平は、場当たりにはいる。
本番の舞台にあがって踊りの流れを確認する。
潤平は落ち着いている。
すでに振りは身体の中にしっかりはいっている。
あとは今いる舞台で位置の確認をするだけだ。
体の動きだけだったら習得している。
幕の向こうに客席が透けて見える。
ほぼ満席で潤平たちの出番を待ち構えている。
たくさんの視線を意識したとたん
潤平のなかで変化が起こった。
舞台わきにはけて中村先生のところに戻る。
本番前の励ましタイム。
「お前は十分良くやった。自信もって行ってこい」
「はい!みせつけてきます」
中村先生は「お披露目会」バージョン、健全な表現をおしたつもりだ。
これでいい。
ところが潤平が戻ってきてしまった。
「先生。・・・俺は、なんのために舞台に・・・」
「”ここにいる意味”って・・・なんですか?」
潤平の問いかけで、バンダ中村先生のバレエ魂に火がついてしまう。
「全身全霊で魂を燃やしきるためだ・・・!」
「生きる、豊かさを・・・愛をもって伝えるためだ・・・!!!」
熱い男である。
「『物足りない』踊りなんてするな!」
「気が済むようにやってこい・・・!」
どたんばで方針を変えてしまった。
中村先生はめっちゃいい指導者だ。