房ちゃんとアキの相談
房ちゃんは悩んでいる。
ラテンの踊り方をつかみたい。
スタンダードとラテンでは距離感がちがう。
身体が離れていてもなにか通じ合っているようだ。
言葉では説明できないものでパートナーとつながっているようだ。
鈴木の説明も、アキの説明も抽象的だ。
「電波ってかね。波動がこう・・・」
「呼吸を合わせた時にこう・・・」
鈴木は手をひらひらさせて伝えようとする。
「360度見える目みたいな・・・」
アキもうまく説明できない。
杉木先生は理性的なのだ。
ダンスの動きをきっちりと言葉で整理できるタイプ。
スタンダードにはそういうところがある。
身体のどこかを常に接触させ、どう動くべきか明確に意志を伝え合う。
ラテンの場合はちがう。
テレパシーみたいな「阿吽の呼吸」がある。
房ちゃんはアキをカフェに呼び出した。
おしゃべりして、どうにかラテンの糸口をつかみたい。
アキのほうにも悩みがある。
最近、踊っていても鈴木の気持ちが伝わらない。
男性側の意志が女性につたわる。
女性側の機嫌や体調が男性につたわる。
言葉にならない交流があるのだが、できなくなってしまった。
房ちゃんが杉木の恋心に気付く
杉木先生のレッスンでも、鈴木ペアは不調だ。
「2人とも何やってるんだ・・・」
杉木はイライラしている。
「ここのところ一体感を感じないらしいです」
房ちゃんがアキの悩みを伝える。
男女のパートナーなのにセクシーさに欠ける。
それは杉木先生と房ちゃんが抱えている問題でもある。
「恋人」ではなく「姉弟」のようだ。
ノーマンからはそう評価された。
ノーマンは耽美的なダンスをみせる。
兄妹パートナーなのに周囲に「禁断の恋」を感じさせる。
もちろん演出だ。
杉木は悩む。
どうしたら「恋」の雰囲気をだせるのか。
「僕と鈴木先生はどう見えますか?」
おもわず房ちゃんに素でたずねてしまった。
房ちゃんは杉木先生の表情で気づいてしまう。
先生は恋をしている。
鈴木先生を見つめている。
残念なことにマンガでは杉木の後ろ姿しか描かれない。
ただ、恋する杉木先生の表情を発見した房ちゃんの反応がみえるだけだ。
房ちゃんはあせる。
「ああもう!!」
「そんな顔しないでください」
おもわず杉木の頭をよしよしとなでてしまう。
(房ちゃんは年上だったのか?)
深夜の特別練習:片手だけのコネクション
杉木は帰りたがる鈴木を捕まえて、特別レッスンを課す。
目をとじて片手コネクションだけで踊るのだ。
手の感触から相手の意思を感じ取って踊る。
杉木の説明は抽象的だ。
片手だけで、ある種テレパシーのような交信をするらしい。
しかしめちゃくちゃうまくいく。
「-ん?」
「おおおお!?」
「すっげ・・・マジきたよ」
杉木の意思がストレートに伝わる。
右に行くか、左に行くか。
面白いほどよく伝わる。
前に行くか、後退か。次はターン。
異変がおこった。
杉木は後退を指示しているのに鈴木は前進してくる。
「なぜ」
焦る杉木だが、鈴木は前進を指示されていると感じている。
本心では来てほしいと願っているのか。
ついに壁におしつけられる杉木先生。
「まだミゾオチに『前進』キてんだけど、どういうことだよこれ」
鈴木は両手をおさえて問いかける。
「異常だろこんな伝わんの」
「アンタの本心はさっぱりわからなのに」
「なあ。どうしてほしいわけ?」
杉木はおもわず答えてしまった。
「僕はあなたが欲しい」
めっちゃ甘い。
笑ってしまうわ。