ドロレスと房子
杉木がアルとスタンダードのレッスンをしている。
そのあいだ、パートナーたちもレッスン。
房子とドロレスだ。
ドロレスには気になることがある。
杉木と鈴木は付き合っているんじゃないか?
ふたりは目で会話している。
ラテンを踊るときのように。
離れていても視線がからみあって離れない。
「熱烈恋愛中の恋人同士」に見える。
房子に語りながらドロレスは確信する。
「あの2人は付き合ってるでしょ」
房子にはピンとこない。
付き合っているなど想像が追いつかない。
帝王杉木はそもそも恋愛感情とは無縁に思える。
鈴木のほうはあまりに健康的で無邪気。
「恋愛」のイメージから遠い。
具体的にどういうこと?
房子はとまどいながらもドロレスの推理を否定する。
いつもどおりの鈴木がスタジオに現れる
鈴木とアキはいつものようにレッスンに向かっている。
アキが怒りまくっている。
昼間、鈴木が予定をキャンセルしまくったからだ。
連絡はメール1本だけ「予定ができた」。
走らないとおくれてしまう。
杉木のスタジオへ急ぎながら、鈴木は理由を説明する。
ラテン世界チャンピオンたちと会っていたのだ。
アキはますます怒る。
自分をなぜ呼ばない?
あこがれのカップルだって知ってるくせに。
口げんかしながら鈴木たちはやってきた。
いつものふたりだ。
にぎやかで明るい。
杉木と房子は落ち着いてむかえる。
これも、いつもどおり。
房子がカマをかける
房子はドロレスの説が気になっている。
杉木と鈴木は熱愛中なのか?
「ちょっと弄ってみちゃえ」
疑惑を胸に抱えてカマをかけてみる。
房子は世界選手権のときの話を振った。
杉木はダンス界の大物ニーノとデキているとの噂がある。
オナーダンスのあと、杉木はニーノを見つめつづけた。
大勢の観客の前でニーノだけにわかるやり方で口説いた。
帝王杉木が固まる。
記憶がよみがえった。
杉木は、ニーノの向こうにいる鈴木を見つめていたのだ。
大勢の観客の前で臆することなく鈴木に手を差し伸べた。
鈴木も赤面する。
「どんだけ恥ずかしいことやったか、自覚し・・」
鈴木のほうも記憶がよみがえっていてもたってもいられない。
動揺しまくる杉木と鈴木。
まちがいない。
房子のほうもびっくりしてドギマギする。
杉木と鈴木はただならぬ空気をただよわせている。
見つめ合い、こらえきれずに目をそらす。
身体は離れていてもまるで目の前にいるかのように視線がからみあう。
房子のほうがいたたまれなくなって座をはずしてしまった。
ラテンの糸口をつかむ房子
目で会話するとはああいうことか。
目の前で見せられて、房子はクラクラする。
杉木は最近、表情がかわった。
ラテンを踊る雰囲気を身につけはじめた。
セクシーで挑戦的な表情。
鈴木への恋愛感情が帝王杉木をかえているのだ。
房子に足りない成分だ。
もともと「高山植物」みたいに穏やかで上品な雰囲気をもっている反面、「悪い女」の顔ができない。
しかし解決の糸口を見つけた。
房子はショックを受けながらもうれしい。
「目の前に良い教材があるわ」
杉木たちをネタに、ダンス表現を向上させる可能性をつかんだ。
「鈴木先生の雰囲気を憑依させればラテンはうまくいく!!」
苦手だった「悪い顔」ができそうだ。
いつのまにか房ちゃんも成長している。
自分の中に眠る「たくらむ女キャラ」を召喚。
ラテンのセクシーさに成長させられそうだ。