付き人、兵ちゃん
大原田さんと夏姫は潤平のことを心配している。
今日は潤平の本番がある。
Limeグループで潤平を案じるふたりのやり取りを見ながら
兵ちゃんは違和感を感じている。
兵ちゃんから見ると、潤平は心配無用だ。
むかしから何をやっても鮮やかにこなしてしまう。
いつものように平気で成功させてしまいそうだ。
そういう奴だったし。
とはいえニューヨークで潤平について行く兵ちゃんだけだ。
豪華客船でのパーティー
パーティーは予想外に大規模だった。
「亡き妻を偲ぶ」とはほど遠い。
豪華客船を借り切っての一大イベントだ。
ゲイリーの父がシャンパンタワーに注いで開会が宣言される。
潤平も兵ちゃんも当然のようにタキシード。
華やかなショービジネスのお披露目会になっている。
兵ちゃんは行き交う有名人たちに度肝をぬかれた。
潤平も愕然とする。
「ホームパーティーじゃねえのかよ・・・」
これだけ大規模な催しならゲイリーが紹介するはずだ。
第一線のエンターテナーたちの向こうをはってソロで踊ることになる。
ゲイリーはこのパーティーが気に入らない。
母を偲ぶどころか、アーティストたちの戦場だ。
ゲイリーがざっくり段取り説明をする。
カイラ(シャキーラみたいな歌手か?)のあとに踊れ、
コイツらが準備するから。
説明は大ざっぱすぎる。
ブランコの指示も手短すぎる。
「時間があまりない」
「控室でメイクして身体あっためとけ」
これだけ?
これだけである。
潤平が舞台前に豹変
ゲイリーの用意したメイクさんは有能だ。
はじめこそメキシコのマルディ・グラっぽいメイクを潤平にほどこしたものの
兵ちゃん提供の動画をみて、あっという間にバレエ・メイクをしあげてしまった。
兵ちゃんはほれぼれしてしまう。
潤平はすごいチャンスをつかんだ。
ものにしたらダンサーとして大成功が見えている。
そして潤平はものにしてしまうやつだ。
兵ちゃんはそう信じている。
外ではカイラのステージが盛り上がっている。
「ちょっとのぞきに行かねっ!?」
浮かれる兵ちゃんだが、潤平が変だ。
部屋を出ようとする兵ちゃんの裾をつかんでパニックを起こしている。
顔面蒼白で冷や汗を流している。
「帰る・・・日本に・・・」
そのままはげしくえづき始めた。
兵ちゃんがはじめてみる潤平だ。
わけが分からん。
そりゃあ舞台前には緊張するもんだろうけど、
緊張の度合いが尋常ではない。
部屋を脱走して走り出そうとする潤平の腰をつかんで
兵ちゃんは途方にくれた。
どこを走ったって船の中をぐるぐるするだけなのに・・・
潤平はもはや正気をうしなっている。
兵ちゃんはブランコへとっさに電話した。
緊急連絡である。
ブランコからの返答を兵ちゃんが伝える。
「俺の代わりに踊れるのはお前だけだ」
こんな言葉で立ち直れるものなのか?
半信半疑の兵ちゃんのまえで潤平がしゃがみ込む。
なにを考えているのやら・・・
無情にも出番が回ってきた。
ドアが開いてスタッフが潤平を呼ぶ。
もういちど逃走しようとする潤平を捕まえて
兵ちゃんはステージに進もうとした。
|