るおう母、真鶴の日本語バリア
ニューヨークの映画オーディションにとつぜん現れた女優へ
潤平は反射的にツッコんだ。
「るおうのっ・・お母さんっ・・・!!!」
潤平をさんざん振り回したるおうの原因となった人物。
そもそもこのお母さんがるおうにさんざんな思いをさせている。
ついでに千鶴先生にも大きすぎる影響をあたえた。
バレエ一族、伍代家の台風の目である。
潤平のつっこみに真鶴は全く動じない。
「ー何?」「誰?」
るおうなんて知らない対応だ。
お前の息子やぞ。
固まる潤平を相手に、わけのわからない言葉を続ける。
まわりのスタッフは日本語がわからない。
言葉の壁を利用して、真鶴はるおうの件を素無視した。
日本の真鶴ファンに神対応している姿に見せている。
鉄壁のバリアである。
るおうが母親を嫌う理由はこういう態度だろうか。
自分を守るための情報コントロールだが目の前でやられたら傷つく。
映画監督が潤平にストーリーを説明する。
「今、探しているのは、MAZURUの生き別れの息子役だ」
真鶴の生き別れの息子はるおうだ。
ちかじかニューヨークに来る予定。
潤平はセンシティブな場面にほうりこまれた。
今の自分をのせてバジルを踊る
映画スタッフからリクエストが上がる。
「ね!あれ踊ってよ『ジゼル』!」
無理だろ。
お気軽すぎるだろう。
こんな因縁の出会いの場でいきなりアルブレヒトになれるわけなかろう。
付添のブランコは「バジル」を踊れと指示。
「今のお前をのせて踊るのに最もあっている」
ブランコは潤平から視線をそらさない。
潤平はスマホからバジルの音楽を検索する。
バジルならたしかに踊り倒している。
尼崎でのYAGP予選からアホほど繰り返した。
無意識でも踊れるくらいだ。
つねに自信のなさと隣り合わせ
尼崎で中村先生が言ったとおりだ。
音楽さえかかればとりあえず体は動き出す。
何度も繰り返し強制的に練習した結果だ。
再生ボタンさえ押せばあとはなんとかなるかもしれない。
ニューヨークで活動していても、潤平はあいかわらず自信がない。
兵ちゃんに何度も泣き言を言っている。
舞台前の緊張が耐えがたい。
踊れる気がしない。
自分が踊れるわけがない。
中身、が・・・
つまらない人間になっていってる・・・
周りが、現実が見えてきちゃって・・・
自信が死んでく・・・
不安が育ってく・・・
隠しても踊りには全て出る・・・・・・
潤平には本質的な悩みである。
自分の才能に対する疑い。
音楽をかけて強制的に体を動かす。
今はぜったいダメな気がするが
動き始めればなんとかなる。
センシティブ・ヘリコプター
潤平は踊り始めた。
「センシティブ(せんさいな)ヘリコプター」
動き始めると調子がいい気すらしている。
観客を観察する余裕もある。
「そうでーす」
「バレエはビッグバンです!!!」
浮かれている。
うけている。
潤平のバジルに拍手喝采がおこる。
しかしブランコの反応が悪い。
顔をそむけている。
そして真鶴からも決定的な宣告
「残念」「あなたには落ちてもらうわ」
ニコニコと拍手しながらのオーディション落選決定。
何がいけなかった?
ブランコの言う「今のお前をのせて」バジルを踊るとはどういうことだったのか?
不安とか自信のなさとのせめぎあいが、
潤平の踊りにいいスパイスになっていたということだろうか。
ダンスダンスダンスール21巻の発売日は9月10日
|