場所の価値
釘宮は帰ってしまった。
1人残されたたたらはスタジオの扉を開ける。
たしかに「風が違う」
日本国内の最高峰ダンサーたちが目の前にいるのだ。
釘宮と違って、たたらは彼らに苦手意識がない。
むしろ近づきたい。
ダンスを始めるきっかけになった動画をたたらは思い出す。
目の前に同じ世界がある。
画面ではなくリアルに動いていてたたらへ手を振ってくれる。
反省をから改善
鎌倉ブレスに行った効果があらわれた。
目の手術を受けてから1週間、たたらはリハビリをこなす。
筋トレばかりつづけている。
今できることをやる。
学校でもたたらは考え続ける。
僕が今できることは何だ・・・?
持つべきビジョンは?
レベルの高い選手たちを見て、じっさいに会話したことでたたらの内面に変化があった。
同じことは軽井沢の合宿でもあったはずだが、今回ははっきりと「場所の価値」にきづいた。
目の故障で大会に出られなかった挫折が、たたらの感覚を開いている。
次の週末、たたらは再び鎌倉のブレスを訪れる。
たたらは成長していて、なんだか頼もしい。
「学校の勉強もちゃんとやるから、行ってもいいかな?」
父親に真っ直ぐに向かい合う。
自然と決意ができている。
ふたたび鎌倉ブレスへ
たたらが到着すると、蔵内(くらうち)が出かけるところだった。
運転手付きの車に乗り込む蔵内を、たたらは物陰から見守る。
よくわからないが蔵内はそうとうなセレブである。
ブレスにはいるたたらを袴田(はかまだ)が迎える。
「そういえばたたらくんは蔵内くんと友達になったんだっけ」
「でも俺はねえ、友達の友達が性格悪いやつだとちょっと嫌だな」
距離が近い。
袴田は体がでかいから圧がすごい。
たたらはあわてて説明する。
先日の悪口は自分自身のことを言っていたのだ。
誤解が解けると袴田は親切だ。
蔵内と同じくたたらの友達になってくれるらしい。
鈴鹿(すずか)ねえさんと一緒に、たたらのリハビリメニューを考えてくれるという。
袴田さん+鈴鹿ねえさんのリハビリ指導
ブレスに来るまでの一週間、たたらは筋トレをたくさんこなしていた。
目に負担をかけないよう注意しつつ、体をつくる。
鈴鹿ねえさんはたたらの体の変化をみてとる。
「この一週間、鬼のように筋トレしてたワケかい」
袴田と鈴鹿ねえさんはさっそく新しい知識を教えてくれる。
ダンサーの場合、筋トレすればいいってわけじゃない。
肩がゴツくなるとホールドが崩れて見える。
腕が太くなると短く見える。
ストレッチも同じだ。
伸ばしすぎると筋がゆるくなって踊りのコントロールが効きずらくなる可能性がある。
じゃあ袴田と鈴鹿ねえさんはどうしているのか?
「筋トレは胸と尻だけ」
ストレッチは「運動前には<動的ストレッチ>、運動後と就寝前には<静的ストレッチ>」
ヨガとピラティスもやっている。
すべてはダンスのために総合的に考える。
つづいてBOX練。
たたらにとってはひさしぶり基礎練習。
同じ練習でも鈴鹿ねえさんや袴田がやると違って見える。
「綺麗すぎるんだよなあ」
たたらは感動する。
筋トレやストレッチと同じように、基礎練習でも見ているところがまったく違うのかもしれない。
「この人たち一体どんな生き方をして何になろうとしてるんだろう」
たたらは袴田にきいてみる。
高校を卒業したらダンスはどうするのか?
袴田は迷いなく答える。
「・・・俺は骨を埋めると思うけど」
かっこいい。
蔵内の撮影班
翌朝、蔵内(くらうち)が朝食のベーコンを焼いている。
たたらは蔵内へ自然にあいさつできる。
長所である。
今日は仙台グランプリの日だ。
目の故障のため、たたらが欠場した大会。
蔵内は撮影班を自費で調達したという。
(セレブである)
蔵内と鈴鹿ねえさんにはさまれて、たたらは仙台グランプリのライブ中継をみることになった。
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