千夏の不審行動
たたらは高校生活にになじめない。
新しいクラスで浮いている。
つらい。
しかし、中学の頃とはちがい
自分から積極的にあいさつしている。
前の席の女子には、前日会った。
ダンス競技会に来ていたのだ。
「昨日の仙石組マジやばかったよねー」
話しかけてきた。
「国内レベルじゃないってホント!」
ダンス好きじゃないか。
詳しい。
思わず気持ちが高まるたたらだが
あっさりつぶされてしまう。
「えー勘弁してよ」
「キモーイ」
社交ダンスへの偏見
ひどい扱いだ。
ダンス教室のフロアを拭きながら
たたらは仁保に愚痴る。
社交ダンスは世間で馬鹿にされる。
「ダサい」
「キモい」
「中高年の金持ちの趣味」
「映画の中の世界」
自分のルックスもかえりみず
あわよくばの下心が見苦しい。
ダンスを続けたかったら開き直りがいるのだ。
「俺を見ろ」という強烈な自尊心と
男女のコミュニケーションは
社公ダンスの核だから。
番場先生の激やせ
たたらは何よりも先に
パートナーを見つけなければならない。
競技会に申し込むためには
カップルに組まないといけないし、
出場するまでにパートナーと
十分に練習を積んでおきたい。
カップルを組むのは結婚するようなものだ。
そのためにダンサーは「お見合い」する。
先生や知人の紹介で出会う。
もしくはダンス雑誌の募集欄から知り合う。
まるで「出会い系」のようなシステムだ。
今日は番場先生のお見合い。
番場先生は美人になった。
やせてアゴがほっそりしている。
唇がつやつやと輝いている。
まつげが長く伸びて瞳が大きくなっている。
たたらと仁保はびっくりする。
番場先生とは思えない。
女は変身するのだ。
「おだまりハゲ」
自信に満ちあふれている。
お見合いの相手とは一目で恋に落ちた。
千夏との初あわせ
翌日、千夏がダンス教室までついてきた。
社交ダンスをディスってくるあの女子だ。
仙石たちからサインをもらいてくて
たたらについてきたのだ。
意味が分からん。
社交ダンスは嫌いだが
仙石が好きということか。
千夏は仙石たちの前ではしおらしい。
一緒に教室へ入ってきた。
たたらはイライラする。
一生懸命練習しているのに
自分はなかなか上達しない。
パートナーも見つからず
競技会に申し込みできそうにもない。
あせっている。
時間がないのだ。
それなのに社交ダンスを馬鹿にするこの女子に
興味本位でおちょくられている気がする。
ところが違ったのだ。
仙石のすすめで組んで踊ってみたところ
千夏は社交ダンス経験者だ。
そして熱烈な本郷ファンだった。
仙石のパートナーの本郷だ。
本郷からサインをもらい、
その上ハグしてもらって
千夏は大興奮している。
「死んでもいいー」
マイナーなスポーツをやっていると
屈折してたいへんだ。