バンダ中村先生の集中特訓レッスン
潤平と夏姫の練習しすぎを防ぐため
バンダ中村先生が特別にレッスンしてくれることになった。
ほっておいたらこのふたりは無茶な練習をして事故を起こす。
ケガでもされたらかなわんから、仕方なく見てやる、
お前らが選ばれる可能性は1%もないぞ、
と言いながらも、バンダ先生は深夜まで付き合ってくれる。
あいかわらず熱い男だ。
レッスンも手抜きなし。
潤平と夏姫が「王子と姫」になれるよう細かく注意してくれる。
レッスン内容は、正しい動きの徹底だ。
『眠りの森の美女』は古典中の古典。
ひたすら基礎力を磨き続ける。
ふたりはレッスンを録画している。
ちょっとした普段のスキマ時間に動画を見直し、
自分たちの体の動きと先生からの注意事項を再確認する。
それからイメトレ。
自宅での練習にも常にパドドゥのイメージを持っておく。
潤平は昼休み中も練習だ。
ひとりで学校の屋上に上がり、
パンを食いながらレッスン動画を見直す。
彼女はほったらかし。
中3だけど受験もほったらかしだ。
リハ前日の最終レッスン~かなり仕上がってきたが
あっという間に数日が過ぎ、リハ前日になった。
最期はバンダ中村先生もほめてくれるほど
潤平と夏姫はよくなった。
まさかの吸収力で予想以上に良くなった。
バンダ中村先生は、明日に備えてレッスンをやめさせる。
やれることはやった。
現時点で主役をゲットする可能性は0ではない。
明日の出来ばえしだいだ。
潤平はテレビ局のスタッフたちから好意を得ている。
その雰囲気に乗って銀也さんにアピールできれば
何とかなるかもしれない。
海咲は殻を破って成長できるのか
海咲は追い込まれている。
16歳にしては十分うまいのだが
パートナーの響がけた外れにすごい。
響に負けないだけの表現を要求されてしまう。
銀也からのアドバイスが海咲をえぐる。
「上っ面をなでるだけの演技は
バレてしまえばお前自身に致命傷となって返ってくるぞ」
海咲がつねづね思っている不安を
銀也は的確に指摘した。
自分には才能がない。
才能があるやつの真似をしてるだけだ。
うまく真似て、ばれなければ
本物の才能に見えるはず。
人から力を借りて使ってきたのだ。
今回もそう。
パートナーの響は素晴らしく美しい。
響の力を借りれば生川のトップも夢ではない。
銀也は、海咲のクレバーすぎるやり方を察している。
そのうえで海咲自身の力を発揮するよう求めてきた。
「海咲、お前の全てをぶつけてくれればいい」
だが海咲は自分自身を信じられないタイプだ。
殻を破らなければならない。
公演の主役を張るなら、自分を見せつけなければならない。
今までのやり方では足りない。
潤平に王子の片鱗があらわれる
いっぽうで潤平は急速に王子っぽさを増している。
もともと楽しさにあふれたダンスをするやつだったが
それに加えて夏姫を支えたいという思いが
潤平を変化させている。
「だって!めっちゃ!!楽しいもん!!!」
「今生まれてきて、一番楽しいですもん!」
「なんで選ばれたいかっつったら・・・」
「夏姫と、この練習する時間を続けたいからですもん!!」
なんという無邪気なセリフだ。
なんという無防備な。
こんなのありかよ。
潤平は純粋に夏姫の王子を目指している。
そのために品位や正しさ、優雅さを身に付けようとしている。
帰りの電車のなか、ルルべで立ちながら
潤平はイメトレを続行している。
国を任せられるような、頼りがいのある「王子」とは・・・
電車が揺れよろけたおばあちゃんを
潤平は思わずサポートしてしまう。
まるで王子である。
潤平が王子の顔になっている。