伊折先輩の反省
2曲めで伊折先輩はミスった。
ミスというか、基本的な姿勢が崩れた。
音楽を聴けていない。
盛り上げようとして大技ドルフィンをいれた。
2曲めのラスト。
ステージ構成としては大技を入れるのはありだ。
観衆にもウケた。
大もりあがりだ。
だが聴きもらした音がある。
聴いているが体が対応していない。
(カカッカッ)
「あ」
いつもの伊折先輩ならひろいあげる音だ。
闘争心が良くない方向にでてしまった。
宇千くんは強い。
あえて伊折先輩の得意分野で勝負をかけてきた。
1曲めには、宇千くんがふだん見せないステップ主体のダンス。
観客をわかせた。
そして2曲目はハウス。
ハウサー伊折は負けるわけにはいかない。
ウケ狙いに走り、わずかに音を逃した。
宇千くんは見逃さない。
ヒップホップの動きを倍速でいれてくる。
直前の伊折ダンスすらネタにする。
「顔うるせぇ」
宇千くんの顔が自信満々だ。
不純な動機
試合前に伊折先輩は恩ちゃんに告白しているのだ。
「もし俺が宇千くんに勝ったら付きあって」
じつはいつも言ってるらしい。
不純きわまりない。
「音楽の前では誠実」どころか下心まんまんである。
だから恩ちゃんがバトルに来ないんだよ。
恩ちゃんは、真っ直ぐな人だ。
照れ隠しなのかとぼけた対応をすつづける伊折先輩にまっとうな言葉をかえす。
「伊折のモチベーションはそうじゃないでしょ」
「そんな目的でバトルしてるとこカボ君やワンダに見せれる?」
伊折先輩の強さは純粋さにある。
不純な気持ちは脇においておいたほうがいい。
原点に戻る伊折先輩
3曲めが始める。
The Bug Ft.Flowdan で Jah War(Loefah Remix)
ダブステップで低音が強い。
トリッキーで重い曲だ。
伊折先輩は原点に帰る。
音楽に体をひたす。
全身を耳にして繊細に反応させる。
伊折先輩はカボくんのダンスを思い出している。
「人のために踊れば踊るほど自由じゃなくなる」
「俺は純粋に」「自分をこえたい」
でっかいスピーカーが振動する。
伊折の体も音楽と一緒にうごく。
宇千くんが興奮する。
「やばいよ伊折くん」「超たのしーよ」
宇千くんはめっちゃ良い奴である。
ダンスが本当に好きで、バトルが好きなのだ。
良いダンスができれば、もう勝ち負けとかどうでもいい。
3曲おどり終えて判定。
伊折先輩が宇千くんに勝った。